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対談
2007年 ―広がる外食産業の存在意義 第一回外食クオリティサービス大賞審査員 
千葉哲幸氏(『月刊飲食店経営』編集長) × 渋谷行秀氏(日本LCA執行委員 F事業本部長)

もはや市場原理だけでは語れない外食産業。
これからはコミュニケーションの領域へ。

消費の二極化が進み、値上げシフトが行われる中で、今やサービス業界ではなくホスピタリティ業界と言われる外食業界が社会へ提供する価値・果たす役割も変化を見せてきた。今後業界はどういった道を歩んでいくのか。コミュニケーションをテーマの中心に語る。

■メニュー値上げは教育やサービス面への投資が目的

渋谷 2006年度の外食はデフレ脱却による値上げシフトや、外食M&Aの活発化、大手チェーンのMBO、また飲酒運転取締強化で郊外居酒屋の大苦戦など、様々なことがあった年でしたが、来年以降のトレンドはどう予想されますか。

対談千葉 最近感じるのは“値上げができる会社” “値上げができる店”が、お客様からきちんと認められていく時代だということです。価格が安いことを重視し追い求める業態はいつの時代も市場の20%程度は存在していくと言われていますし、多くの方に安価で食事をしてもらう役割の業態は必要です。ただ、単に価格を上げるのではなくてお客様に満足感を感じてもらうために必要な投資をしていくための値上げであればお客様からも認められる業態がきちんと残れる時代ではないかと考えています。
  値上げの目的は店舗力の強化であり、店のリニューアルだとか社員の教育など、様々な店舗環境、サービス面へ利益を投資することに変わっていくと思います。飲食店の戦いはいかに付加価値の高いものをお客様に提供するかという世界になり、感覚的なもの、心の中に響くものに主眼が置かれていくのではないかと考えます。そういった観点からすると、御社で行われていますミステリーショッピングのスタンスもまた変わっていくのではないでしょうか。これまでやってきた評価の項目から、新しい評価項目として必要となるものも出てくると思いますね。

■マニュアルのチェックツールからホスピタリティ教育ツールへ

渋谷 仰るとおりで、外食市場は97年をピークに減少し、低価格化をはじめ、安かろう・悪かろうといった状況を作っていってしまいました。ただ一方で、中食では、素材にこだわり本物志向を目指したものが支持されたりもしています。消費者からすると、ファーストフードやファミリーレストランは、昔はハレの場だったのが、今では“とりあえずファミレス”といった具合になってしまっている。そういった状況の中で、外食自体の消費者に提供する価値を見直していこうという動きがここ2〜3年の流れであったと思います。消費が低価格化と高付加価値化に二極化しているというのは従来から言われており、いいものにはお金を出す時代だということはわかっているので、外食も「原点回帰」「食材重視」「本物志向」「健康志向」といったキーワードをもとに取り組み始めています。
  実は我々がミステリーショッピングリサーチを展開した当初はサービスのチェックが中心で、マニュアルが徹底できているかどうかの評価システムでした。おそらく基本的にミステリーショッピングリサーチというサービスはどこでも最初は「マニュアルで運営規定がされているものが規定どおりにやられているかどうか」、「店舗運営のスタンダードが守られているかどうか」のチェックツールという位置づけだったと思います。それが、マニュアルが徹底されていてもお客様からのロイヤリティが高まるかといえばそうではなくて、印象には残らない“満足”程度のレベルしか提供できない。お客様の印象に残るには、接客の中でも“サービス”のレベルではな“ホスピタリティ”のレベルが重要だと気がつきはじめました。最近は、「従業員の心温まる思いやり」や「おもてなしの気持ち」が伝わるかどうかといったことを中心にチェック項目自体が構成されています。マニュアルよりもお客様が感じる店の雰囲気の良し悪しや、さりげない心配りができているかといった点を重視するフォーマットに変わってきています。

■一番の決め手は何と言っても“おいしさ”

渋谷 今後どういったことが重要視されていくかという点に関しては、3年くらい前にデータを分析して気がついたことがあるのですが、お客様の「もう一回来たい」、「誰かに紹介したい」といった気持ちには、どのような満足度要素が影響しているのかを調べたことがあります。結果、あらゆる業態で一番影響しているのは“おいしさ”でした。ただ単に、ホスピタリティができているとか、サービスのレベルが高いだけでは消費者には支持されません。お店の“ウリの商品”がどう評価されているのか、そこに対してどれだけ付加価値を感じてもらっているか、その商品の付加価値が伝わるような演出ができているかなど、おいしさをお客様に評価頂けるかどうかが今後さらに重視されると思います。

対談:千葉千葉 なるほど。実は、私はこの業界に長年携わってきて、結局“おいしさ”はレストランにとって重要じゃないと考えていた時代もあったのですが、先ほど話をしたような、お客様の満足のための適正な値上げができるかどうかは、“おいしさ”が一番優先順位が高いのではないかと思い始めました。たとえば吉野家さんでも、早い・安い・うまいという例の文句も、その順番をうまい・安い・早いの順番に変えています。「味・おいしさ」が重要だというのは、一見ずいぶん前近代的なことを言うようにも聞こえますが、やはり値段を高くするならそれは重要です。たとえば、今感動できるお店があっても、今以上にもっと感動いただくために強化させられるものはそう簡単にないし、差別化され、より際立つものは“味”で、それを非常に重視すべきと感じました。最近のLCAに寄せられるコンサルティングテーマはどんなものが多いのですか?

■議論の中心はマーケティングからコミュニケーションへ

渋谷 最近は従業員の活性化についての改善プログラムの需要が非常に多いです。もちろん戦略的なコンサルティングも行いますが、「採用できない」「人が育たない」といった「人」をテーマとしたコンサルティングが特に増えています。経済が良くなると必然的に労働市場から人気の低い外食業界は人材が採りにくくなる。となると採用をうまくやることも大切ですが、パートアルバイトも含め、従業員の定着度を高めることが重要視されてきます。先ほど少し話にも出ました、店の「ウリ」にするものを従業員が説明できるかということは、実はすごく大事だと思っています。ブランドはそこで働いている従業員がどれだけ自分の扱っている商品に自信を持っているかがポイントだと思います。そういう「ウリ」が明確になっているお店で働いている従業員の方が定着率は高いのではと感じています。

千葉 最近は外食に関する各学会などでも、「マーケティングから議論するのではなくて、コミュニーションから議論するべきじゃないか」といったお話をたくさん耳にし始めていますね。議論の中心がコミュニケーション能力についてだったりもします。
  従業員とマネージャーとのコミュニケーション、会社としてのコミュニケーション、お客様とのコミュニケーションのあり方という視点で会社としての存在意義を問うていこうという観点です。今までの外食の存在意義というのは、市場にどれほどの影響力を持つかということと、どういう展開をすると市場から評価されるのかなどといった議論ばかりでした。
  しかし、市場にどのようなメッセージを伝えるか、また、顧客とどのようなコミュニケーションをとるべきか、そして、そのためにはどんな教育が必要なのかなど、いわゆるコミュニケーションの側面が重視されてきて、チェーンレストランの時代・マニュアル中心の時代から心の領域に入ってきたという感じがしますね。そこに、国の総人口が増えないという実態と現実があって採用が難しくなり、採用の問題というより、定着率を高めることが解決の糸口になってきています。定着率の問題は、仕事がどれだけ充実しているかという心の問題に関わってきますし、会社、ないしは店のコミュニケーション環境の活性化が課題になってきています。そういったことが、雑誌の記者も学校の先生もコンサルタントの皆さんも議論し始めているのが今の外食業界の大きな流れになっていると実感しています。

■心の教育機能を担う外食業界

対談:渋谷渋谷 確かに外食業界というのはもはや市場原理だけで語れなくなってきていると思います。どんなに強力なチェーン店が出てきたとしても、個店がなくなるかといったら絶対なくなりません。たとえば自動車業界で、自分の好きな車を好きなように作っている会社はそれで収益が取れるかといったらなかなかそうはいきませんが、外食だったら、一軒の個店でも、それが生業として成り立つ。外食業界の場合は、規模を拡大するかのみではなく、働いている従業員やそこに来られているお客様の“心の充実”といったものを主眼において経営するスタイルが見直され始めてきたと思いますね。
  日本の学校教育の中で、「心」の大切さの教育はあまり重要視されていないように感じますが、最近では居酒屋甲子園などで話題の外食第四世代の経営者のなかには、お客様・従業員と接していくなかで「心」の大切さを教え、お店を人としての、また「心」の学校にしたいと思って頑張っている方が増えてきています。そういったお店で働く若いアルバイトスタッフは、そんなお店を、学校では勉強できない「心」の大切さをリアルな実社会の中で学べる場、そして自らの成長をさせてくれる場と感じ、非常に高いモチベーションで仕事に従事しています。当然、そのようなお店では飛躍的にスタッフの定着率も高まります。

■外食業界から他業界へホスピタリティ教育ノウハウを発信

千葉 レストランという言葉は、ラテン語で“元気にする”というのが語源らしいですが、力石先生が執筆された『ホスピタリティ』(商業界)は、ものすごい売れゆきで、毎年一万部が売れています。外食業界だけでなく、自動車業界や製造業、サービス業でまとめ買いを頂いているらしいのです。様々な人と接する業種の方が、この本を読み始めているということは、各業界においてもお客様を“元気にする”という要素を必要としている現れだと思います。働く人々がレストランを必要としているのと同時に、レストラン的な「元気にする」という要素が様々な業種の中で求められてきています。そういう飲食の持つ「人々を元気にする」というコアコンピタンスがノウハウ化され、外食業界から他業界に発信していくようになるのではないかと思います。

渋谷 私もその通りだと思いますね。極論を言えば、飲食業というくくりで企業を考えなくてもいい時代になっていくのではないでしょうか。飲食業というのは“ホスピタリティ”の教育に適した業種のひとつだと思います。高校生でもファミレスでウェイトレスのアルバイトをしてホスピタリティ接客を学ぶことができます。飲食業を営むことで培った、ホスピタリティを教育ノウハウをもとに他の業界に広げていく。たとえば病院などにもっとホスピタリティ・マインドが浸透すれば患者はそういう病院を選びたいと思うでしょうし、ホスピタリティがあったら、消費者からの評価が変わり、支持が高まる業種は非常に多いのではないでしょうか。飲食店はそんなに高収益にはならない事業ですが、飲食で培われたホスピタリティノウハウの強みを活かし、他業種で高収益事業を確立する会社があってもいいと感じています。10〜20年後は、業績面での成長性や収益性だけで株価がつく時代から、CSR(企業の社会的責任)に貢献している会社、また人材育成を通じて社会貢献している会社など、社会性の面の評価も重視され、株価がつくような時代に変わっていくのではないかと思います。ミステリーショッピングリサーチや私たちの提供しているコンサルティングソリューションもそのような企業を目指す会社の力になれればと思っています。

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